不明の熱

【ガンマ1号→ヘド、ガンマ2号→ヘド】




【ガンマ1号起動時】

「おはよう、ガンマ1号」

 目覚めて初めて目にしたのは貴方の顔でした。

「流石超天才のボクだ、この短い期間で作れるのだから」
「どこか違和感はあるか?」
「まだうまく見れていないのか?」

 自慢げな顔をして好奇心を露わにした表情で聞かれたかと思えば、貴方の顔を見ているだけでピクリとも動かないわたしにすぐに心配をした表情へと変わり手をひらひらさせた。

「っ、失礼しました。視界、可動部、他も不具合なし……良好です。」

 このまま動かずにいればさらに困惑される、悲しませると理解しそれを阻止する為に急ぎ答える。
 わたしの言葉に今度は目じりを下げ「そうか」とまた違う表情、声音をされて再び視覚が貴方の顔で止まり動けなくなってしまう。

「?……ガンマ?」

 いけない、この声音はもう聴きたくない。 慌てて動き出そうとすれば足が縺れ片膝を着いてしまった。 正常と言った矢先にこの失態、顔を少し上げれば先程よりも近くにいた。

「っ」

 体のどこかが熱を上げたような気がした。 不調の兆しかもしれない、伝えなければ……なのに口から出た言葉はまったく違った。

「貴方の名前を伺っても?」

 咄嗟に右腕を胸部の中心に動かし手を当てて恭しく貴方に声を掛けた。
 ポカンとされ、少しの間に顔を赤らめ軽く咳払いをする貴方

「まさかここまでの性能……ボクの最高傑作にふさわしい出来栄えだ」

 『最高傑作』
 その言葉にまたどこかが熱を上げた。 それと同時に喜びという感情が内で燻った。

「ボクの名前はDr.ヘド。まぁ博士でも構わない。」
「ではヘド博士とお呼びします。」

 貴方、いやヘド博士は満足そうに笑いながらわたしを見て言った。

「これからお前はスーパーヒーローになるんだ、ガンマ1号」

 再び聴きたいと思っていたよりも心地よい声音でヘド博士は言った。

「すーぱー……ひぃろ……」
「あぁ! これはボクがしっかり教えるためにまだ入れていない知識だからな」

 どうやらヘド博士はこの単語がとてもお気に入りのようだ。 興奮気味に「スーパーヒーローとは」を語っている。
 これになったわたしはヘド博士にまたこの声を、この顔をしてくれるのか。 そしてわたしを見続けてくれるのか。 それを理解したわたしは一日でも早くスーパーヒーローになることを誓った。







【ガンマ2号起動時】

「おはよう、ガンマ2号」

 初めてボクが目にした創造主は小さくて可愛らしい人でした。

「2体目も無事に起きてくれた、やはりボクは超天才だな」

 自信満々で頷いて、ボクの顔を見る為に見上げたその顔は嬉しそうだ。
 「調子はどうかな2号」と呼びかけられたが、ボクは目の前のこの人の表情と声を観察するのに夢中で、視線を合わせたまま見つめてしまっていた。

「……2号? ガンマ2号?」

 2号、正確には「ガンマ2号」がボクの名前のようだ。 名前をこの人に呼ばれる度に体内のどこかが熱い。
 不調の兆しか、けれど嫌な熱さではない、このことを不調として教えるのに抵抗感があるのはなぜだろう。 よく分からない熱とそれに対処する為の行動を自身が否定したがる衝動に戸惑っていれば、ボクの両手に柔らかなものが触れた。
 視線を手に移せばこの人の両手がボクの両手を握ってくれていた。 意図が理解できず再び視線を手から顔へと戻せば、丁度彼が口を開く時だった。

「2号、ボクの声が聞こえていないのかい? 聴覚に異常があるなら読唇のデータは入れてあるから唇の動きで内容を読み取れるだろう?……返事を……声を聞かせて欲しいんだ」

 寂しそうにそう言わさせてしまったことにボクは慌てる、そんな声が聞きたかった訳じゃないんです。
 急ぎこの人の目線に合わせようとして膝をついて、握ってくれていた手を今度はボクがそっと握り返す。

「2号?」
「反応しなくて……ごめん……なさい、申し訳ありません……で、した……」

 ようやくボクの声をこの人に聞かせられた。 目の前の彼はボクの声に目を大きく見開いてじっと見つめてきてくれる。

「えっと、調子はどこも悪くないです……反応が遅れてしまったのは貴方にボクの名前、2号……ガンマ2号って呼んでもらえることがとても……とても嬉しくて、もっと聞きたくてじっと待っていたんです」

 ボクの言葉を聞いて彼は無表情に近かった顔を徐々に綻ばせて笑ってくれた。

「そうか……それなら良かった」

 最初に見た嬉しそうにしていた表情とはまた違う喜びの表情と声に体内の嫌じゃない熱が上がったような気がした。

『なんだろうな……これ……』
「ガンマ2号……2号!」
「え、あ、はい!」

 熱に気を取られていればまた名前を呼んでくれた、違う理由で反応が遅れてしまったが今度は声を出して返事をすることができた。

「何でしょうか?」
「握ってくれている手……ちょっとずつ力が強くなってきてるよ」
「あっ……し、失礼しました!」

 この人に触れていた手を離したくなくて無意識に力を込めつつあったのを指摘され、力を抜いて手を外そうとすれば再び彼から握られて離せなかった。

「え、えっと……」
「言っただろ、ちょっとずつだって。痛くなる前に指摘したからそんなに急いで離れなくていいんだよ2号。
それからね、名前を呼んで嬉しいっていうのはボクもだよ。だから2号もボクの名前、呼んでくれるかい?」
「はい、勿論……えーっと「Dr.ヘド。まぁ博士でも構わないけど」
「では…ヘド博士でよろしいでしょうか?」

 ボクの呼び方に博士は驚いた顔をした。

「2号もか……ガンマ1号もボクのことをそう呼ぶんだよね。だいたい周りはDr.ヘドでここの社長の側近は嫌味で天才ドクター・ゲロのお孫さんだよ」

 思い出したのか博士は眉間に皺を寄せて不愉快そうになる。 ヘド博士はその側近が苦手のようだ、覚えておこう。

「ま、それはいいとして……ガンマ2号、別室で待たせているガンマ1号を紹介するよ。
これから共にスーパーヒーローになるボクの最高傑作の片割れさ」
「最高……傑作……」
「そう! ガンマ達はボクの最高傑作だよ!」

 ヘド博士のその時の表情と声は一番心地良かった。

「ヘド博士、すーぱーひーろーというのは? 分からないのですが……」
「それはボクからしっかり教えるためにまだ入れてない知識だよ。紹介の後でたっくさん教えるからね」

 立ってと言われ、立ち上がれば握っていた手を片方離されて引っ張るような形でボクを先導するヘド博士

「2人の活躍する姿を見れるのが楽しみだなぁ……絶対にカッコいいよ!」

 嬉しそうに笑うヘド博士を見て落ち着きつつあった熱がまた上がる気がした。
 いつか博士にこの熱のことを伝えるれるだろうか、それとも気付かれるのが先なのかどちらが早いのだろうかと1号の元へ案内される最中ボクは考えていた。